仏教心理学会 会員
同志社大学大学院 総合政策科学研究科 博士課程・後期課程
岡田 成能
 
 私は本山修験宗の僧侶であり、大学院にて民族紛争の研究を進めている学生でもあります。
 
 修験と言うと古来の山岳信仰のイメージが強いですが、神仏習合を経て大乗仏教の思想を基に体系化され、発展してきました。明治の修験道禁止令など困難にも遭いましたが、脈々と受け継がれてきた仏教を尊び、今でも多くの僧侶や在家の行者が山や里を問わず修行を重ねています。
 
 また修験を訪ねる方には、仏教の思想よりも祈祷によるお願い事や通俗的な神秘性を求める方もいらっしゃいます。仏教的ではないと指摘されることもありますが、仏教的に差別なく捉えれば、これもまたその方自身の求道の一歩であるかもしれません。行き詰まった悩みを神仏に打ち明けることで心が少しでも前を向き、新たな活力の芽吹きを助けるなら有意義であると思いますし、いつの日か自利を超え、利他のための原動力を培うことに通づるかもしれません。
 
 しかし、小さな願いはいつしか心を縛る大きな執着に変貌することもあります。幸せを自分の思い描いた型に押し留め、本来持っている安寧を霞ませてしまうこともあります。実際に大きな執着に囚われてしまっている方は本当にお辛そうで、私は一人一人の願いを大切にすると同時に、執着から離れる手立ても平易かつ具体的にお伝えする必要性を感じてきました。そして、仏教の原点に立ち戻ろうと考えました。
 
 一方、別視点から心理学の重要性も実感していました。それは大学院での民族紛争の研究においてです。民族紛争は相容れない欲求を持つ指導者たちが「民族」という概念を使って支持者を集め対立する現象で、中には大規模に暴力化する例もあります。私の研究目的は、そのような民族紛争が暴力化するメカニズムの解明です。それが明らかになれば対立しても暴力化を避ける手段を見出すことができるのではないかと考えているのです。
 
 民族紛争はこれまでその構造の研究が主流でしたが、私の関心である集団間の紛争と暴力のメカニズムや当事者の分析については十分な知見が揃っているとは言えません。そこで、人の心と社会の関係に注目する社会心理学を学びながら研究を進めています。
 
 この気づきにより、私は人と仏教の関わりも心理学の視点で捉えることで、大きな執着による苦しみから脱する具体的な方法も見つけられるのではないかと思い、このHPからケネス先生に1通のメールをお送りしたことがご縁の始まりでした。
 
 日本仏教心理学会は、これまで別々の道を歩んできた学問が出会う意欲的な場であると思います。一方で学際的な学会は異質なもの同士が同じテーマを囲む、独特で困難を伴う空間でもあります。地道な文献調査を基にどんな小さな足跡も見逃さない丁寧さで2500年前のブッダを探し続ける仏教学。豊富な理論を備えた飛行機を駆使し空からブッダを探し始めた心理学。そして悩み苦しむ人々に寄り添い共に生きる実践的な宗教者。それぞれの「作法」は違えど、各々の成果が相まってブッダの思考を一層深め、より多くの人々の心のために実践可能なメソッドを編み出すことができる良きチームだと思います。
 
 日本仏教心理学会の益々のご発展が人の心の安寧に一段と寄与しますよう、心より祈念いたしますと共に、今後も皆様と共に学びを深めていきたいと思っております。
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