セラピイにおける仏教的視点

セラピイにおける仏教的視点
ヒューマンライフ心理センター・心理相談室主宰
元国立看護大学校講師・学生相談室カウンセラー
高玉泰子

 心理臨床を進めて行く上で、クライエントの語りにセラピストは寄り添い、受容・共感的理解を言葉にして行く「自己一致」の態度が重要である。私はかつて、日本精神技術研究所心理臨床センター所長であった故東大名誉教授佐治守男先生からその薫陶を受けた。カンファレンスでは、担当する個々のケースにおける理解と応答の仕方を厳しく指摘されることが度々で、私は、自分自身の心の修行が必要だと思った。
 
 日本に心理療法の潮流を引き起こしたC・ロジャースは、「何がその人を傷つけているのか、どの方向に行くべきか、何が重大なのかを知っているのはクライエント自身である。私自身(セラピスト)が、自分の賢明さとか知識を示そうとする欲求を持っていないならば、クライエントの動いていく過程をより一層信頼するようになる」岩崎学術出版『ロジャース全集』4・サイコセラピイ過程で、銘記している。このロジャースの「体験過程理論」には、彼自身の実際の面接場面での経験があり、又、クライエントが自分の心の実感に触れられることの重要性を明らかにしてフォーカシング心理療法を打ち立てたジェンドリンとの共同研究で、仏教思想の影響を受けているという。
 
 それで私は二十年程前から、故中村元博士が創設された東方学院に通い、様々な仏教経典による思想と深遠なる教えを学んできた。セラピイでは、様々な煩悩で散漫になっている心に注意を向け、捉えて対象化し、見つめる。この時、セラピストが解釈や余計なアドバイスなどしなければ、沈黙し、常識的に考えない、言葉を離れた「経験」の世界に没入し、熟考していく。心身の無意識への焦点化によって、本質に開かれ、知性的な理解の瞬間的気づきが表出し、自己変革起こる。いうなれば、脳の偏桃体の感情情動的反応から、理性的な大脳新皮質へ、心理反応の転換となる。現在ブームとなっている「マインドフルネス瞑想」の経験も、このようなものではないだろうか。
 
智慧の気づきに向かって、クライエントもセラピストも共に修行していくのだと思い、日々実践している。