仏教心理学会会長 井上ウィマラ
マインドフルライフ研究所:オフィスらくだ主宰
私はこの3月で大学勤務に一区切りをつけて、マインドフルライフ研究所:オフィス・らくだ主宰として新たな活動を始めることにいたしました。思い返してみますと、高野山大学でスピリチュアルケア学科を設立する際にお声掛けを頂いてからの13年間は、仏教に基づいた新しいケアの可能性を切り開くための試行錯誤が理論的にも実践的にも一つの形に到達してゆくための時間だったように思います。その時の学びの素材の一つは、対人援助の現場で働きながらスピリチュアルケアを学んでくれた社会人学生たちの体験の声でした。
地元山梨に戻って、毎日往復2時間の自動車通勤で通った健康科学大学での2年間は、富士山麓の自然を舞台にした教育の可能性について思いを巡らしながら、コメディカルの資格を目指す学生たちの生の声を通して現代社会が直面している多様な問題を感じ取った学びの時間でもありました。保健所からの依頼で青木ヶ原の樹海における自殺防止活動への研修を担当させて頂き、命を守るための多層的な取り組みの必要性を痛感しながら行政への意見書をまとめていったことにも深い因縁を感じています。その一方で、新型コロナウィルス蔓延の中での教育方法を模索し続けたこの1年間では、ZoomやTeamsなどを使った遠隔授業のやり方を学ぶことができたことが大きな収穫でした。
定年退職まではあと3年ほどあったのですが、思い切ってフリーに戻る決断をしてみてつくづく感じたのは、組織を離れて教えることのできる悠々とした心の自由さでした。大学で教えていた15年間では忘れていた懐かしい感覚でした。まだ子どもたちが学校に通わねばならない年齢ですので、金銭的な不安はありますが、「あれもできる、これもやりたい…」と次々と浮かんでくる希望の多さは自分でも驚くほどでした。
そして不思議なことに、通勤から解放されてみて、「これでやっと地元に戻ってきたんだなぁ…」という実感がしみじみと湧いてきています。小さなころからお世話になった人たちの思い出が次々に浮かび、友人たちを含めて地元に育てられたことへの感謝の念を味わっています。ゆったりと家でくつろぎながら、小学生の高学年から中学生くらいだったころの自分が探し求めていた問題の答えは得られただろうかと、かつてそうしたように夜空の星を眺めながら自答してみたのですが、ほとんどの答えが見つかっていることにとても満足しています。
そんな自分がこれからの仕事としてやりたいと思っていることは、いろいろな相談を受けることに加えて、Ānāpānasati-suttaやSatipaṭṭhāna-suttaをはじめとするブッダの教えやマインドフルネスに関するいろいろな講座を提供することが中心になってゆくと思います。そこでは大学生活での多くの経験が役に立ちそうです。
そして仏教心理学に関しては、マインドフルネスが日本の各宗派仏教における具体的な修行実践の中にどのように組み込まれているかを具体的に研究してみたいと思っています。会長職は来年度から千石先生に引き継いでいただく予定ですので、より自由な形で仏教心理学の発展に貢献できればと思っています。