仏教心理学の萌芽期を振り返り、発展を展望する

仏教心理学の萌芽期を振り返り、発展を展望する

駒澤大学文学部・仏教学部非常勤講師、日本大学理工学部非常勤講師、東京都公立学校スクールカウンセラー
加藤 博己(かとうひろき)

母校の駒澤大学心理学研究室は、禅を科学的に研究するために1968年に秋重義治先生(東大哲学教授井上哲次郎の甥)により創設された。その膨大な研究群は主として日本心理学会、日本応用心理学会で発表された。また、私が大学院に在籍していた当時、日本心理学会内で唯一、禅などの宗教的研究を行っていたのは、春木豊先生を中心とする早稲田大学の先生方と恩師中村昭之先生を中心とする駒澤大学の先生方で、他大学の研究者の知恵と力を集めるために、学会内に「東洋的行法研究会」を立ち上げ、毎年シンポジウムやワークショップを開催していた。私は学部生時代より禅の大元である初期仏教に関心を持ち、修士論文にてその執筆をお許し頂いたが、禅を研究してきた駒澤大学においても初期仏教研究は異端派であった。そのような中で、仏教学部の皆川広義先生がゼミで私の著作を輪読されていたことと、国際会議での発表では反響があったことを励みに、まずは母校で仏教心理学を理解してもらうために禅心理学と仏教心理学のつながりについて明確にしたいと思って始めた禅心理学のレビュー、総括的研究を始め、気づいたら30年が経過した。

 さて、本学会は世界初の仏教心理学会である。仏教と心理学という異なる分野で活動する会員が対話しやすくするために、井上ウィマラ、葛西賢太の両先生とともに『仏教心理学キーワード事典』(春秋社)を編纂した。これにより共通言語が整ったが、学会員を増やし、活躍するメンバーを固定化させないためにさらなる工夫が求められる。その具体例は本学会ニュースレター5号に既に挙げたが、要約、補足すると、査読者名の開示による学会誌信頼性の担保、学会誌の横書き導入による英文、梵文、巴文等への対応力の強化、学会誌にキーワード、英文abstractを入れ、ISSNを取得することでの全国レベルのデータベースでの掲載論文検索力強化、海外の仏教心理学研究者・実践家とのニュースレターを利用しての交流、参加費無料での公開シンポジウムによる一般への門戸開放、学会宣伝と、会員向けミニ講義やワークショップ導入による基礎知識獲得と体験的学び、学会賞・奨励賞制度を設けての学会員の活躍の増加などである。また、日本心理学会内の宗教心理学研究会員等との対話、コラボ企画などもお互いの活動の活性化につながるだろう。個人的には禅心理学研究を総括し、仏教心理学につなげる研究を完結させ、これまでの日本の仏教心理学研究の経緯、アーカイブを記録に残して後世に伝えていきたい。本学会における研究成果の蓄積、実績を世界に発信し、発展期を会員の皆さんと一緒に歩めることをうれしく思う。

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